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[特集]「翻訳と文芸理論―20 世紀日本文学の幕開け―」趣意文

【特集】「翻訳と文芸理論―20 世紀日本文学の幕開け―」
森岡卓司(司会・コーディネーター)より
 日本の近代文学は、詩学から散文の理論、ジャンル論に至るまで、多様な海外の文芸理論を、直接、あるいは間接に受容しつつ成立してきた。坪内逍遥から江藤淳に至るまで、数多の具体例を挙証し得るその事実は、しかし、日本近代文学が他国の文芸理論の影響下にあり続けた、ということのみを単純に意味するのではない。翻訳行為における等価性への配慮が起点テクスト・目標テクスト双方に対する創発的な契機を不可避に抱え込むことは、既に広く踏まえられる前提となっているが、文芸理論と文芸作品との関わりもまた、単純な抽象/具現という単純な枠組みだけで把握することのできない問題を含んでいる。(この両者は、正しい翻訳、正しい実作、というものをあらかじめ措定することが不可能であり、その翻訳あるいは創作がどのように可能になったのか、を事後的に測定するほかない、という点でもよく似ている。)
 本特集では、20 世紀初頭の日本文学における海外文芸理論受容の様相を、こうした複層的な緊張関係を含み込む浸透の場としてとらえ直すことを目指したい。近代日本の翻訳文学研究の第一人者である井上健氏の講演、支部会員二氏による発表の後、フロアを交えた総合的な討議の時間を準備している。参加各位の活発なご発言を切にお願い申し上げる。