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[研究発表]要旨①(特集:翻訳と文芸理論 ―20 世紀日本文学の幕開け―)

【特集・研究発表①】

江島宏隆「「コレスポンダンス」の受容と展開―ボードレール上田敏北原白秋―」

 ボードレールソネット「コレスポンダンス」は、フランス象徴主義の理論的支柱となった。この詩のなかで提示されている「コレスポンダンス」は多義性をはらみ、理論化するうえで拡大解釈を誘発する要素を含んでいる。
 明治末期に日本近代詩が成立する時点で、『海潮音』は決定的な役割を果たしたが、そのとき触媒として働いたのは「象徴主義」であった。二十数編の「象徴詩」の訳が解説とともに示されると、若い詩人たちはその限られた情報をもとにそれぞれ独自の「象徴詩」を創作していく。この時、訳詩集はいわばプリズムのような機能を果たし、理論の分光現象をもたらしたのではないだろうか。そして、フランス本国の象徴主義自体にも分光現象をうながす要因があったと考えられる。
 本発表では、ボードレールという光源から『海潮音』を通過し、北原白秋の詩集に展開したスペクトルをたどってみたい。