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[研究発表]要旨①

強調記号使用による注意喚起作用の分析をめぐって
――夏目漱石『心』のMeredith McKinney 訳版の状況から―― 

                                                                              徳永光展(福岡工業大学


夏目漱石の代表作である『心』(1914)には、佐藤いね子(1941/後の近藤いね子)、Edwin McCellan(1957)、Meredith McKinny(2010)による3 種類の英訳が出版されてきた。本発表は、先行訳を参照しつつ、より相応しい英語表現と追究したと考えられるMcKinny の最新訳に研究対象を絞り、本文中における強調表現が施されている場面を取り上げ、翻訳者が如何なるニュアンスをそこに託したかを具体例に則して垣間見ようとする。翻訳者は、時として翻訳文の中で斜字体(イタリック体)を使用しているのだが、これらの箇所にはどのような含蓄を認めることができるのであろうか。koto やHyakunin isshû のように日本独自の文化的背景に根差した語彙への注意を促す場面もあれば、K の死骸に接した時に「あゝ、失策つた」という強い悔恨をOh god, it’s all over.
として読者の注意を喚起するような仕掛けとして作用する場面もあるのである。