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[講演]要旨

悲劇の座標軸                    加藤行夫(筑波大学教授)


われわれが日常生活において「悲劇的」ということばを使うとき、それはどのような感情を表わして言っているのだろうか。現実に起こる悲惨な「悲劇」と文学作品の感動的な「悲劇」とはどう違うのか。ニーチェの論ずる「悲劇」はアリストテレスの論じた「悲劇」と同じものなのか? テスの「悲劇」とアンナ・カレーニナの「悲劇」は? 日本文学に「悲劇」はあったのか?こういったさまざまな悲劇意識のありかを、非合理の謎であるとする見方と合理的に解釈できるとする見方を両極とする縦軸、そして、歓喜に導く肯定的なものと見るか暗く否定的にとらえるかを両極とする横軸、その二本の軸が交差してできる四つの座標面のなかで考えてみよう。そうすることで、よく知られた作品の位置関係と特殊性を再確認することができ、また、たとえばイギリスの初期近代のように、没落物語の教訓的な「悲劇」からシェイクスピアの偉大な「悲劇」の誕生へという座標の推移として文学史を読み直すこともできるだろう。