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[特集研究発表]要旨②

批評の悲劇/悲劇の批評

――吉本隆明『悲劇の解読』を読む――          塩谷昌弘(盛岡大学


1979 年に刊行された吉本隆明の『悲劇の解読』は「批評の悲劇」を語ることから始められている。そこで吉本は批評言語が「自覚的に死につつある言葉」であると述べている。吉本の70 年代後半は、『初期歌謡論』(1977)や『戦後詩史論』(1978)といった詩論によって知られているが、80 年代に入ると『空虚としての主題』(1982)や『マス・イメージ論』(1984)といった著作や、埴谷雄高とのコムデギャルソン論争(1984)に徴候的に表れているようにサブカルチャー領域への発言が目立つようになる。詩論及び「批評の悲劇」を語る70 年代後半の吉本と、80 年代の吉本との間に乖離を認めるのは容易であるが、本発表では、この吉本の乖離を〈悲劇〉という階梯を設定することで理解したいと考えている。70 年代後半に『悲劇の解読』で論じようとした〈悲劇〉がいかなるものであったのか。吉本が捕捉した「批評の悲劇」とはなんだったのか。「自覚的に死につつある言葉」としての批評言語はなにを論じようとしていたのか。〈悲劇〉を必要とした70 年代後半の吉本について考察を進めてみたい。