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[研究発表]要旨②

20世紀初頭における日本人の中国人観 

   ―紀行文を中心に―  神谷 祐太

 

 現代日本人は、中国人と言えば、どの様な姿を想像するだろうか。「爆買い」に代表される、日本に大挙して押し寄せ、金に物を言わせて製品を買いあさる彼らはそのひとつの典型かもしれない。この様に現在多くの中国人観光客が日本を訪れているが、100年前日本人の間で、中国旅行ブームが起きたことはあまり知られていない。そのきっかけは1905(明治38)年、ポーツマス条約の締結をもって日露戦争が終結したことによる。これにより軍人・政治家のみならず、多くの民間人も大陸を訪れるようになる。その中には作家や修学旅行生がいた。
 そこで本発表では、彼ら旅行者が記した紀行文の中に描かれた中国ならびに中国人像について考察する。取り上げる作家とその著作は、夏目漱石『満韓ところどころ』(1909・明治42)、谷崎潤一郎『上海交遊記』(1926・大正15)、芥川龍之介支那遊記』(1925・大正14)である。また1907(明治40)年には、当時の陸軍省・文部省の肝煎りで、将来教員となる高等師範学校の学生を、満州へ送りこむ修学旅行が企画・実施された。その記録である広島高等師範の『満韓修学旅行記念録』(1907・明治40 )も併せて取り上げ、作家と学生がいかに中国・中国人を描出していたかを比較・検討する。