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[研究発表]要旨①

美女と野獣」の話型からみる『紅の豚』 

                   田中理紗(東北大学大学院博士後期課程)


 「美女と野獣」型の物語には大きく二つのタイプがあり、まず一方には18世紀フランスのヴィルヌーヴ夫人およびボーモン夫人のテクストに基づく「美女と野獣」の翻案作品(絵本、実写映画、ディズニー、ミュージカル)がある。他方で、より広い意味で「美女と野獣」の類型といえる物語群があり、それは古代ギリシャにさかのぼり、現在もいろいろなメディアで存在している。
 後者のタイプにあたる「美女と野獣」の話型を取り入れた作品の中には、「野獣が元の人間の姿に戻り美女と結ばれる」というハッピーエンドとは異なる結末の作品も存在する。その一つが、長編アニメーション映画『紅の豚』(宮崎駿、1992)である。『紅の豚』には、「美女と野獣」のテーマである「野獣が美女から愛されることで元の人間の姿に戻る」という構図がありつつも、呪いが解けたのか、美女と結ばれたのかは曖昧にされている。また、そこに戦争体験のトラウマが「人間の愛」によって癒されるというモチーフが加えられている。
 本発表では、「美女と野獣」のテーマがどのように活用されているのかに注目することで、現代文化におけるおとぎ話「美女と野獣」の変遷の一端を明らかにしたい。