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[研究発表]要旨②

ハーンとボードレール

   —―ボードレール散文詩「月の恵み」の英訳をめぐって—―

                           中島 淑恵(富山大学


 ボードレール散文詩は、その内容および形式において、ラフカディオ・ハーンが自らの表現手段としての文体を獲得して行く上で大きな影響を及ぼしたものと考えられる。本発表は、ハーンが生涯に二度英訳を発表したボードレール散文詩「月の恵み」の二つのテクストを比較検討することによって、その影響のありようについて考察を行おうとするものである。
 ハーンによるこの散文詩の最初の英訳は、1882 年3 月12 日付の『タイムズ・デモクラット』紙のコラムとして発表されたものであり、いま一つは、東京帝国大学の講義の中で、「もっぱら夢想と夢と哲学的空想を表現するのに適した」 ボードレールの詩的散文の好例としてこの散文詩を紹介したものである。およそ20 年の時を隔てたこの二つの翻訳の間にはさまざまな相違点がある。20 年という時間の隔たりが、ハーンのボードレール理解の何を変容させ、あるいは何を変容させなかったのか、検討してみたいと考えている。