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[特集発表]要旨①

青空のゆくえ:あるいは戦後日本社会における「アメリカ」表象の分析


                       鈴木 貴宇(東京支部、東邦大学

 

 戦後日本社会が出発する占領期の言説を概観すると、「焼け跡」に代表される喪失感と並んで、戦後民主主義社会の到来と希望を象徴する〈青空〉表象の頻出に気づかされる。その様態を大衆文化において象徴するものとして、並木路子の歌う「リンゴの唄」(1946)が挙げられる。「赤いリンゴ」に込められた生命的なるものへの希求と、これから始まる新しい時代への希望が〈青空〉として表象されている様子が看取される。しかし、視線を例えば戦後詩に向けると、そこで登場する〈青空〉には希望だけではない、重層的な意味が込められてもいたことが明らかになる。飯島耕一は、代表作「他人の空」において、禍々しいまでに物質的で絶対的な他者としての「空」を描くことで、敗戦期の人々が経験したであろう虚無感と疎外感を形象化した。本発表は、こうした重層的な意味を持つ〈青空〉表象に着目することで、敗戦から占領期を経た時期の日本社会に生きた人々の感受性を抽出し、それがやがては生活全般のアメリカナイゼーションへと浸透していく様態を明らかにしようとするものである。