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[特集発表]要旨②

三島由紀夫のアメリカ認識


                            山﨑 義光(秋田大学


 三島には6 回の渡米体験がある。「世界で一番ニューヨークが好き」(「ニューヨーク」1960)という三島は、端的に言えば親米である。とはいえ、それは理想や憧れ(それゆえの劣等感)の対象だったのではない。パリやロンドンよりも、アメリカにこそ20 世紀の世界的動向の尖端が体現されているとみた。「憂國」と同年に発表した「美に逆らうもの」(1961)では、「北米合衆国はすべて美しい」とし、「ディズニイ・ランド」と「大雑誌の広告欄」といった「商業美術」に「現代的な美の普遍的な様式」をみる。その一方で、「ひたすら美的感覚を逆撫でするやうなもの」をこそ求め、「香港」のタイガーバーム・ガーデンを、ポー「アルンハイムの地所」になぞらえて、見出していた。両者はポジとネガのような表裏の関係にある。そうした20 世紀後半のモダニティ認識と批評的な視角の変奏を、「幸福といふ病気の療法」(1949)から「旅の墓碑銘」(1953)『鏡子の家』(1959)「帽子の花」『美しい星』(1962)などの小説にみることができる。三島がアメリカ認識を経由して提起した「居心地の悪さ」(大塚英志)をめぐって考えたい。