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[研究発表]要旨②

アメリカ」を書き直す  ―一九三〇年前後の川端康成・再考―

                       仁平 政人(東北大学

 

 川端康成が文壇に登場した一九二〇年代中盤から三〇年頃にかけては、「アメリカニズム」が多様な含意を帯びつつ社会的・文化的に大きなトピックとなった時代であった。そうした状況の中で、初期の川端もまた、「アメリカ」および「アメリカニズム」の問題に対し両義的な態度を持ちつつ深い関心を示し続けていたと言える。だが、こうした川端の「アメリカ」・「アメリカニズム」をめぐる言説が、同時代においていかなる位相にあり、またそれが何を生み出したのか、本格的な追究は未だに乏しい。

本発表では、一九三〇年前後の川端における「アメリカ」・「アメリカニズム」言説の変容に注目し、特に従来取り上げられることのなかった短編「風鈴キングのアメリカ話」(一九三〇年)について、日系アメリカ移民のテクストなどの引用の問題を視野に入れて考察を試みる。それは一連の「浅草もの」を含む、当時の川端の試みを捉え直す端緒ともなるはずである。