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[発表要旨]

夏目漱石テオフィル・ゴーティエ受容 ―ラフカディオ・ハーンを媒介項として―

 中島 淑恵(富山大学

 

 漱石文庫には、ゴーティエの作品の英訳が3種類収蔵されている。このうち1冊は、ハーン訳による「死霊の恋」、「ミイラの足」「カンダレウス王」が収められた1908年出版の『世界物語作家叢書』である。これらの作品は、もとは1882年にハーンが自費出版した『クレオパトラの一夜およびその他幻想物語集』に収められていたものであるが、いずれの作品も、訳出にあたってハーンが参照したと思われるゴーティエの原作にはさまざまな書き込みがあり、ハーンの初期作品に深い影響を与えたのではないかと考えられている。

 漱石におけるハーンの影響については、テーマ上の共通性が指摘されることはあっても、それが実証されることは従来あまりなかったように思われる。本発表では、これらの物語について、ゴーティエの原文とハーンの英訳、さらに漱石の書き入れ等を比較検討しながら、とりわけ「墓」「死美人」といった問題系について、その影響関係を推論するものである。