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[研究発表]要旨③

矢島真澄美(東北学院大学

 

     写真家フェリス・ベアトの風景写真とピクチャレスク

 

 1863年に来日したイタリア系英国人写真家フェリス・ベアト(Felice Beato, 1832–1909)は、日本の風景や風俗を数多く撮影し、その後の来日外国人職業写真家たちの先駆けとなった人物である。彼が撮影した日本の風景写真について、佐藤守弘(『トポグラフィの日本近代』青弓社、2011)は、粗い要素の被写体、曲がりくねった川を画像の中央に配置し、左右非対称な構図を作り出す傾向を指摘している。 ピクチャレスクとは、18世紀に風景の題材として注目されるようになった言葉であり、19世紀には写真界にも浸透していた。当時、イギリスを中心とし、ヨーロッパで活動していた写真家たちは写真の芸術性について模索していた。
 本発表では、1860年代における写真界の芸術に関わる写真家たちの動向に目を向けながら、ベアトが撮影した風景写真を、当時の写真家がそれぞれの芸術の解釈のもとに行った、合成印画法、芸術写真、コラージュ、ソフトフォーカス、自然主義などの表現上の試みと照らしわせ、彼がピクチャレスク性を構図に用いたことが何を意味しているのか検討していきたい。