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[研究発表]要旨④

山崎義光(秋田大学

 

      報道の時代のなかの島木健作満洲紀行』


 島木健作満洲紀行』(創元社、1940)は満洲開拓地の実状見聞にもとづいたルポルタージュ的エッセイ集である。14のエッセイと1つの小説、30葉の写真から成る。本書の特質が見聞のリアリズムによる批評性にあることについては拙論「島木健作の地方表象」(『一九四〇年代の〈東北〉表象』 東北大学出版会、2018)で論じた。本発表では「序」で言及した2つの点に注目する。1つは、渡辺勉撮影の写真が付されていたことである。満州事変から日中戦争が本格化した1930年代は「報道写真」の隆盛期で、満州は国策宣伝の対象だった。もう1つは、アンドレ・ジッド『ソヴェト旅行記』(小松清訳、1937)『ソヴエト紀行修正』(堀口大学訳、1937)への言及で、これは『満洲紀行』の意図や意義づけに関わる。満州をめぐるプロパガンダと問題発見的な見聞との両面がせめぎあう「報道」の時代のなかでの本書の特質と意義について考究したい。