日本比較文学会東北支部のページ

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[要旨①]

「女性」の観点から見る1980年代の韓国      

    金貞禮(全南大学校(韓国))

 

 1980年代、当時の独裁政権を倒した韓国の民主化運動には、男女問わず多くの若者が参加したものの、以後女性たちの姿は薄くなっていった。男たちが政治家など社会のリーダーになっていく中で、女性はそれを手助けする役を余儀なくされる場合が多かった。今の韓国のMeToo運動をはじめとする女性運動は、その彼女たちの世代が生んだ子供、なおかつ教育した子供の世代、いわゆる1980年代から1990年代生まれの女性たちが中心になっている。

 一方、韓国では、日本の現代詩人の茨木のり子の「わたしが一番きれいだった時」(1957)という詩が多く読まれていたが、2018年には当代の韓国を代表する文貞姫が日本の女性の「傷」に共感する同題の詩を書いた。茨木のり子が日本人の「冷淡さ」を克服するために試みた様々なこと、韓国語を学ぶことや韓国に関する勉強、韓国への訪問、そして韓国語での会話の試みなどのコミュニケーションの方式は、初期の韓流ブームを主導した日本の中年女性たち、そして最近の韓流を主導している若い女性たちに引きつがれているように見える。さらにこの頃日本でもっとも多く売れている韓国小説が他でもないチョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(2016)であるという事実は、茨木のり子と文貞姫が示した日韓のシニア世代のジェンダー的共感がチョ・ナムジュの小説を読んだ日韓のジュニア世代に引きつがれているように思える。