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[要旨②]

性暴力をめぐる「文学」の二面性―林奕含『房思琪の初恋の楽園』を中心に

   橋本恭子(日本社会事業大学(非常勤講師))

 

 #MeToo運動が始まる数年前から、台湾では性暴力をテーマにした小説が多数発表されてきた。 胡淑雯『太陽の血は黒い』(『太陽的血是黑的』印刻、2011年)、甘耀明『冬将軍が来た夏』(『冬將軍來的夏天』寶瓶文化、2017年)など代表的な作品は邦訳もされている。最も話題を呼んだ林奕含『房思琪の初恋の楽園』(『房思琪的初戀樂園』游擊文化、2017年)は、未成年の少女に加えられた性暴力がメインテーマだが、この小説にはもう一つ、「文学(教育)とは何か」という大きなテーマが設定されている。作者は、「文学」のある側面が性暴力を許す装置として機能していたことを暴露すると同時に、男性知識人が操る「文学」に対して、女性が抵抗の手段、あるいは再生の手段として見出す「文学」についても描いており、それは「文学」をめぐる価値転換を提示したとも読み取れる。この点は、ヴァネッサ・スプリンゴラ『同意』にも通じるだろう。そこで本発表では、性暴力をめぐる文学の二面性について問題提起し、国境横断的な対話を試みたい。