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[要旨①]研究発表

・廣瀬航也(福島工業高等専門学校東北大学大学院)
永井荷風「監獄署の裏」の空間 ——ボードレール「秋の歌」の引用に着目して——

 

 永井荷風「監獄署の裏」は、1909年3月に雑誌『早稲田文学』に発表され、後に単行本『歓楽』(易風社、1909年9月)に収録された、作家の帰朝後の短篇である。「監獄署の裏」はこれまで、作家の文明批評的な態度と関連づけながら論じられてきたが、近年では「監獄」「獄中」イメージに着目した論も展開されている。これらを踏まえ本発表では、ボードレール「秋の歌」の引用に着目する。ボードレール「秋の歌」は、『珊瑚集』(籾山書店、1913年4月)にも収録された、作家のボードレール受容を明らかにする上で重要な詩篇であり、「監獄署の裏」における空間の構成にも影響を与えている。それにもかかわらず、その引用の問題はこれまで十分に検討されていない。本発表では、「秋の歌」の引用を起点として「監獄署の裏」における空間の問題を検討し、同時代的な文脈の中にこれを位置付ける。それにより、「監獄署の裏」が日露戦後に蔓延した「閉塞」的な空気を共有すると同時に、流動的かつ複層的な空間を構成し得ていることを明らかにする。