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【研究発表④】要旨

演技を書く ―井上ひさし『藪原検校』における叙事的演劇とグロテスクの技法―

                         摂津 隆信(山形大学

 

 『藪原検校』は1973年の初演以来、木村光一、蜷川幸雄、栗山民也、杉原邦生など
の名だたる演出家たちによって上演されてきた井上ひさしの隠れた名作である。他の
作品と同様、この芝居においても井上ならではのコント要素がふんだんに用いられて
いるが、その裏には現実社会の不都合な真実を見透かす井上の冷徹な眼差しが隠され
ている。この笑いは異化的であり、またグロテスクでもある。
 本発表ではこの異化と笑いのグロテスク性を、ベルトルト・ブレヒトのエッセイ「街の場面」(1940)に描かれる叙事的演劇の演技法とミハイル・バフチンの「グロテスク・リアリズム」の理念を補助線にして論じていく。これにより、『藪原検校』の結末における凄惨な祝祭性が、ブレヒトの『三文オペラ』のように、作品受容者たる「われわれ」の姿勢を厳しく問うものであることを明らかにする。