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[研究発表]要旨①

木戸浦豊和

  〈観念〉・〈印象〉・〈情緒〉 ―夏目漱石の文学理論とイギリス経験論―

 本発表の目的は、夏目漱石の文学理論をイギリス経験論の観点から解釈し、『文学論』(明治四〇年)や「文芸の哲学的基礎」(同)をはじめとする漱石の文学理論の意義を考察することである。漱石は一八世紀英文学を論じた『文学評論』(明治四二年)1632~1704)で、ジョン・ロック(1632~1704)を嚆矢とし、ジョージ・バークリー(1685~1753)を経て、デヴィッド・ヒューム(1711~1776)に至るイギリス経験論の系譜に言及している。ただし、漱石におけるこれらの哲学の受容の実態は十分に解明されてはいない。また、従来の研究では、『文学論』の冒頭で提示される〈観念〉〈印象〉などの用語は、ヒュームの哲学と関連を持つことが示唆されてきた。しかし、特に〈観念〉の語は、ヒュームの哲学に限らず、イギリス経験の認識論的な議論の中で最も基礎的で、重要な用語の一つである。そのため、漱石の文学理論における〈観念〉の用語の出自を、ヒュームの哲学にのみ帰属させることはできないだろう。以上の問題意識から本発表は、イギリス経験論の認識論を参照した上で、これらの哲学的な観点から、漱石の文学理論における〈観念〉〈印象〉〈情緒〉の意義と機能とを考察することとしたい。