日本比較文学会東北支部のページ

日本比較文学会の東北支部活動について情報発信して参ります。

研究会の対面参加に際してのお願い

今週日曜日に迫りました 2024年度日本比較文学会北海道支部・東北支部 第8回比較文学研究会ですが、対面でのご参加を予定されている方に以下の2点をお願いいたします。

 

① 発熱等の風邪症状がある場合は、来場をお控えください。

② マスクの着用は任意ですが、会場内ではできるかぎりの着用をお願いいたします。

 

インフルエンザおよび新型コロナウィルスの感染が拡大傾向にあります。当日の運営でも感染予防対策を行いますので、ご参加の皆様にも協力のほどよろしくお願い申し上げます。

 

チラシ

 

特集研究発表  要旨②

日韓フェミニズムに関する一考察  ―ハン・ガンと村田沙耶香の作品を中心に―
姜 惠彬 (医療創生大学)

 

 2018 年、チョ・ナムジュ『82 年生まれ、キム・ジヨン』が日本でベストセラーとなり、同タイトルで映画化され話題を呼んだ。さらに、斎藤真理子編『完全版 韓国・フェミニズム・日本』(2019)には、パク・ミンギュ、ファン・ジョンウン等、韓国現代文学を代表する作家の多くがフェミニズムの枠組みの中で論じられている。フェミニズムの十分な研究成果が蓄積されてきた日本において、韓国のフェミニズムはどのように機能しているのか。本発表ではまず、その背景にあるフェミニズム運動の軌跡と、ジェンダークィア研究の動向に触れる。次に、ハン・ガンの『採食主義者』(2007)と村田沙耶香の『授乳』(2005)を取り上げる。2 作は、人物たちのジェンダー葛藤が摂食を媒介に語られる点、また、摂食が暴力性を内包する行為として描かれる点で共通している。さらに、『採食主義者』の語り手は、水以外の摂食を拒み植物化していくが、ジェンダー規範から脱するための、植物への変身というモチーフは、本谷有希子異類婚姻譚』(2016)においても確認される。

特集研究発表 要旨①

日中で呼応する女性作家 SF

山本 範子 (北星学園大学)

 

2022 年 4 月、中央公論新社より『中国女性 SF 作家アンソロジー 走る赤』が発売された。この本は中国側の編集と日本側の編集による共同で作成されたアンソロジーで、「女性作家のみ」という縛りを設けたものである。本書の影響を受けて、2023 年 4 月、河出書房新社より『NOVA 2023 年夏号』が出版される。「NOVA」は日本国内の SF アンソロジーであるが、初めて女性作家のみの特集を組んだ。これは編者の大森望氏によると、『走る赤』に刺激を受けたことが原因であるという。その後、2024 年にこの 2 冊が揃って中国で出版されることが決定した。これは中国でも女性 SF 作家が注目を集めているからだと思われる。
 実は同じ頃、2021 年に『她 SHE』上下本が中国廣播影視出版社より出版されている。この本はサブタイトルを「中国女性科幻経典作品集」と銘打っており、作品の全てが女性作家によるものである。
 なぜ、同時期にこのような作品集が相次いで出版されたのか。そこにはかつて「SF は男のものである」という偏見があった時代から、「女性が読み、書くこと」も当たり前になってきた時代を映し出していると思われる。しかしそれでも、意識して「女性作家特集」を組まねばならぬ程度には、未だ女性 SF 作家の立場は強くはないのである。
 本論では、日本と中国の SF 小説が呼応して女性作家特集を組んだこと、またそれらの内容と特徴について比較し、検討していくものである。

【講演】要旨

拡散するロシアのフェミニストたち  ―新たな亡命文学の地平―

高柳 聡子 (早稲田大学非常勤講師)

 

 ロシアでは 2010 年代以降若い世代のフェミニスト詩人たちが次々に登場し、ロシア文学史上初の「フェミニスト詩」の時代が到来した。この潮流を牽引したのはオクサーナ・ヴァシャキナ(1989-)、ガリーナ・ルインブ(1990-)、ダリア・セレンコ(1993-)といった女性詩人たちだったが、彼女たちは創作のみならず家庭内暴力の被害者やLGBTQ の人びとを支援する活動家でもあった。その背景には 2013 年の「同性愛プロパガンダ禁止法」の制定などマイノリティに対する弾圧の強化とそれへの反発がある。さらに 2022 年のウクライナへの軍事侵攻後、反戦運動を率いたフェミニストたちの多くは弾圧を受け国外へ移住した。「亡命」の新たな波ともいえるこの事象は、欧米の亡命ロシア人コミュニティに加え、ジョージアラトビアなど旧ソ連構成国にも波及し、国外での出版活動も活発化している。ロシアのフェミニスト詩人を中心にその創作と活動の現在を紹介し、新しい「亡命文学」の在り方を考察する嚆矢ともしたい。

企画趣旨【特集 〈フェミニズム〉再考 ―フェミニズム的問題意識の現在】

 第二波フェミニズム以降に示されたジェンダー概念が人口に膾炙するようになって久しい。それとともに、フェミニズムが提起した問題群はジェンダー研究の一つとして再編されていった。フェミニズムの内部でも、「女」という同質的なカテゴリーを前提とする議論や運動への内在的な批判が生まれた。このような事情を背景に、フェミニズムは 1990 年代に成熟を迎えると同時に一定の役割を終えたものとして見なされてきたのである。しかし、2010 年代半ば頃からフェミニズムという言葉やその問題意識が再び注目されるようになってきた。2017 年の「#MeToo」運動をきっかけに、いまだ残されている「女」の問題が可視化され、フェミニズムの必要性が改めて主張されるようになったのである。ジェンダーを問わず「私たち」が生きる〈いま・ここ〉には、戦争や侵略、暴力や差別、貧困などが遍在している。そのような世界で〈フェミニズム〉の可能性が(再)浮上したことの意味は決して軽くない。文学の領域においても、世界各地で〈フェミニズム〉を謳う女性文学やコンテンツが社会に大きなインパクトを与えた。それは一時のブームでは終わらず、同時代の(そして後継の)作品や読者たちへと、国境や地域を越えてつながっていった。
 今回の合同研究会では、近年の〈フェミニズム〉再評価の動きをふまえた上で、ロシア、韓国、日本、中国など各地で生まれた昨今の女性文学サブカルチャーについて、3名の登壇者にご発表いただく。その後の討論や意見交換を通じて、新たな対話の可能性や複数の問題の交差性を探っていく機会となれば幸いである。