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[研究発表]要旨①

芥川龍之介におけるエドガー・アラン・ポー ―講演「ポオの一面」を中心に―

                         三澤 奈津美(山形大学大学院)


 芥川龍之介エドガー・アラン・ポーに深い関心を抱いていたことはよく知られており、「短編作家としてのポオ」(1921)と「ポオの一面」(1927)の二つの講演資料にもその関心の在り方をうかがうことができる。「短編作家としてのポオ」では、「Romantic」な気質を持って非現実的な題材を扱ったにもかかわらず、優れた分析的描写によって作品を「調和」させた作家としてポーを評価している。しかしこうしたポー理解は、J・R・ローウェルや夏目漱石の論を引き継いだものだということが、先行研究で既に指摘されている。本発表では、芥川の蔵書を用い、「短編作家としてのポオ」に表れた芥川のポー理解がどのように構成されているのかを実証的に再検討する。さらに、これまでの研究で精査されてきたとは言い難い「ポオの一面」資料を読み解くことで、芥川晩年のポー理解が漱石の影響圏からいかに離脱し、独自性を獲得していったのか、その内実を明らかにする。