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要旨③

西遊記受容史における佐藤春夫の位置

                井上 浩一(東北大学非常勤講師)

 

 作家、詩人の佐藤春夫(1892-1964)は、周知のとおり、中国文化の受容や児童文学の方面においても功績を残した人物である。そしてその功績の一つが、中国小説を原典とし、児童書として刊行された『西遊記』の編訳である。

 本発表では、数種類存在する佐藤訳『西遊記』の中で、臨川書店『定本佐藤春夫全集』第32巻に収められている『西遊記』(新潮社、1944年)が、日本の西遊記受容史においてどのような位置づけにあたるのか、発表者がこれまでに検討を加えた宇野浩二や伊藤貴麿など、他の作家による『西遊記』との比較を通して考察する。

 ただし、佐藤春夫による中国小説の翻訳で確認が必要となるのが、『平妖伝』の翻訳などで問題となっている代筆の問題である。そこで佐藤訳『西遊記』を西遊記受容史に位置づけると同時に、『西遊記』に代筆の問題が存在するのか否かについても、現時点で可能な限り検討したい。