日本比較文学会東北支部のページ

日本比較文学会の東北支部活動について情報発信して参ります。

[講 演]要旨

中村唯

  アメリカその光と影、または父なるものと空虚

     :戦後日本知識人と亡命ロシア作家の事例

 第二次大戦後の世界が事実上のPaxAmericanaだったことは、否定できない事実のように思われる。そのことは、東西対立の一方の盟主であることを標榜していたソ連の知識人の言説に、しばしば単純な敵視とは違った「アメリカの影」が差していることからも窺われる。また、東アジアにおける「西側」の代表格だった戦後日本の知識人の言説に、「アメリカ」が多大な影響、または束縛を及ぼしてきたことは、これまで加藤典洋ほかの批評家がくり返し指摘してきたところである。

 本報告では、アレクサンドル・ソルジェニーツィンヨシフ・ブロツキー江藤淳村上春樹など、実際に米国に居住した経験を持つ作家を主な対象として、冷戦構造下での立ち位置が異なっていた戦後ソ連と日本の知識人の言説における「アメリカ」の描写や定位の比較対象を行なう。その作業を通して、20 世紀後半の世界におけるアメリカ、ソ連(ロシア)、日本の自己/他者表象の交錯模様の素描を試みたい。

[研究発表]要旨①

木戸浦豊和

  〈観念〉・〈印象〉・〈情緒〉 ―夏目漱石の文学理論とイギリス経験論―

 本発表の目的は、夏目漱石の文学理論をイギリス経験論の観点から解釈し、『文学論』(明治四〇年)や「文芸の哲学的基礎」(同)をはじめとする漱石の文学理論の意義を考察することである。漱石は一八世紀英文学を論じた『文学評論』(明治四二年)1632~1704)で、ジョン・ロック(1632~1704)を嚆矢とし、ジョージ・バークリー(1685~1753)を経て、デヴィッド・ヒューム(1711~1776)に至るイギリス経験論の系譜に言及している。ただし、漱石におけるこれらの哲学の受容の実態は十分に解明されてはいない。また、従来の研究では、『文学論』の冒頭で提示される〈観念〉〈印象〉などの用語は、ヒュームの哲学と関連を持つことが示唆されてきた。しかし、特に〈観念〉の語は、ヒュームの哲学に限らず、イギリス経験の認識論的な議論の中で最も基礎的で、重要な用語の一つである。そのため、漱石の文学理論における〈観念〉の用語の出自を、ヒュームの哲学にのみ帰属させることはできないだろう。以上の問題意識から本発表は、イギリス経験論の認識論を参照した上で、これらの哲学的な観点から、漱石の文学理論における〈観念〉〈印象〉〈情緒〉の意義と機能とを考察することとしたい。

日本比較文学会2015 年度東北大会のご案内

研究会のご案内です。

日本比較文学会2015年度東北大会を下記の要領で開催致します。

皆様ふるってご参加ください。(一般来聴歓迎)

 

       記

 

・日時 2015年12月19日(土)13:30~

・場所 盛岡市民文化ホール 

   (会場アクセス→マップ・交通情報- 盛岡市民文化ホール

 

・プログラム

 

[開会の辞] 東北支部長 伊藤 豊

[研究発表]  14:35~14:10  

木戸浦豊和 〈観念〉・〈印象〉・〈情緒〉

                              ―夏目漱石の文学理論とイギリス経験論―


[シンポジウム] 14:20〜17:00

 テーマ「アメリカ(継続テーマ)」  司会・コーディネーター 塩谷昌弘

 

〇講演

中村唯史  アメリカその光と影、または父なるものと空虚

       ―戦後日本知識人と亡命ロシア作家の事例―

 

〇研究発表                              

高橋由貴  大江健三郎のアメリカ体験 

       ―「アメリカの夢」から「狂気を生き延びる」文学へ―

 

梁姫淑   朝鮮戦争とアメリカ占領軍 

       ―張赫宙『嗚呼朝鮮』『無窮花』を中心に―

 

[総会]

本年度の企画共通テーマ 「アメリカ」について

 東北支部では、会員の活動の活性化のために、折々の企画のテーマに沿って多くの方々から発表・原稿を募り、研究成果を世に問う企画を進めております。
 この企図の第一歩として、今回は「アメリカ」を共通テーマとしつつ、相互に連動した特集企画を実施します。

 一見して東北とは何の関係も無さそうな「アメリカ」というテーマを選んだのには、それなりの理由があります。まず第一に、様々な専門分野を持つ会員が集まる東北支部で、できるだけ多くの会員の参加を可能とするような、広がりのあるテーマを選ぶ必要がありました。第二に、ここでの「広がり」とは、単に雑多な要素を含むという意味では決してなく、全体としては、あくまで比較文学・文化という大枠を順守しつつ、個別の話題は多様でありながら、そこに相互の有機的なつながりを見出しうるといった種類の、共通テーマを定める必要がありました。このような視点から候補にあがった複数のテーマについて検討し、最終的に選ばれたのが「アメリカ」です。無論、アメリカといっても、アメリカ合衆国を直接的な対象とする研究という意味ではなく、比較文学・文化という視点を最大限に活用しつつ、個々人の専門の立場からアメリカ表象を論じる、ということです。 
 「アメリカ」を考える試みの皮切りとして、本年7月の比較文学研究会においては、「親米と反米」のテーマでシンポジウムを開催しました。さらに12月の東北大会でも、この共通テーマのもとに特集企画を実施していく予定です。
 皆様には、以上の趣旨につき何卒ご高配を賜り、研究発表や寄稿などの機会を通じて、本事業に積極的にご参加くださるよう、よろしくお願い申し上げます。

 

日本比較文学会2015年度東北大会発表者の募集

 12月19日(土)午後より盛岡市民文化ホールにて開催予定の2015年度東北大会の発表者を募集致します。

【自由発表】と【特集 アメリカ】の2種を募集を行いますので、題目(仮題でも可)と400字程度の要旨を添えて、プロフィール欄に記載の支部事務局までメール等にてお申し込み下さい。


・自由発表は発表25分、質疑10分。
・特集発表(2題)は発表20分、個別質疑10分。


*特集は継続テーマ「アメリカ」です。今回は中村唯史氏(京都大学)による講演「アメリカの影と幻:戦後日本知識人と亡命ロシア作家の事例」(仮題)を中心に、関連する公募発表2題と総合討議によって構成の予定。テーマ趣旨については別エントリー欄に記載の趣旨文を参照のこと。
*特集発表の数、発表時間等の構成については、応募者と相談のうえ変更する場合があります。

*発表者で常勤職をお持ちでない方には、支部として交通費の一定額の補助をさせていただく予定です。
*発表にご応募いただいた方には確認のメール(または郵便)をお送りします。

 


□発表申し込み締切:2015年11月13日(金)
□発表申し込み先:事務局(山形大学・森岡卓司メールアドレス)


支部会員研究成果(著書・活動)紹介について

 以前よりお伝えしておりましたように、支部会員のみなさまが研究成果として刊行されたご著書や精力的なご活動をウェブ上でご紹介しております。
 過去一年間に支部会員のみなさまが刊行されたご著書(比較文学研究に関連するもの)やイベント等のご活動で、支部ブログに掲載をご希望のものがありましたら、著者、書名、刊行年月、発行元、あるいは活動の日時、場所、内容等を事務局までお知らせ下さい。
 また、ウェブ担当の方で気がつきました支部会員著書につきまして、当方の判断でご紹介をさせていただく場合もございます。この点、どうぞご了承ください。

 また、「比較文学比較文化に関する最優秀の研究書」に贈呈される比較文学会賞について、学会賞選考委員会規約の変更にともない、対象年齢の上限が45歳から50歳に引き上げられました。2016年度の選考対象となるのは、
・本年(2015年)12月31日現在50歳以下で、本賞未受賞の日本比較文学会員を著者とするもの

・昨年(2014年)1月1日より、本年(2015年)12月31日までに刊行された、日本語による単著となります。

 こちらについても、ご推薦いただければ幸いです。

 宜しくお願い申し上げます。