[研究発表]要旨②
仁平 政人(東北大学)
川端康成が文壇に登場した一九二〇年代中盤から三〇年頃にかけては、「アメリカニズム」が多様な含意を帯びつつ社会的・文化的に大きなトピックとなった時代であった。そうした状況の中で、初期の川端もまた、「アメリカ」および「アメリカニズム」の問題に対し両義的な態度を持ちつつ深い関心を示し続けていたと言える。だが、こうした川端の「アメリカ」・「アメリカニズム」をめぐる言説が、同時代においていかなる位相にあり、またそれが何を生み出したのか、本格的な追究は未だに乏しい。
本発表では、一九三〇年前後の川端における「アメリカ」・「アメリカニズム」言説の変容に注目し、特に従来取り上げられることのなかった短編「風鈴キングのアメリカ話」(一九三〇年)について、日系アメリカ移民のテクストなどの引用の問題を視野に入れて考察を試みる。それは一連の「浅草もの」を含む、当時の川端の試みを捉え直す端緒ともなるはずである。
[研究発表]要旨①
ポンティングの見た日本人
―1900年代に撮影された肖像写真における表現とその意図―
矢島 真澄美(東北学院大学)
英国人写真家ハーバート・ジョージ・ポンティング(Herbert George Ponting 1870–1935)は、1901年から1906年までの間に幾度も日本を訪れ、およそ3年の月日を過ごした。彼の作品は、ステレオ写真『立体鏡で見る日本』Japan through the Stereoscope(1904)や、写真集『富士山』Fuji-san(1905)、日本での体験をまとめた著書『逸楽の国 日本にて』In Lotus-Land Japan(1910)など様々な媒体で発表された。これらの写真には、人物、自然、町並み、風俗とそのテーマは幅広く、また、常に被写体同士の関係性を見極め、構図法や表現方法を工夫することで、彼独自の見解を提示しようとする姿勢が表れている。
本発表では、人物を被写体とした写真を取り上げ、ポンティングが考える肖像写真とはどのようなものであり、またその表現にはどのような意図があったのかを探っていく。その際に、1900年代、写真界で盛んに論じられていたストレート・フォトグラフィー(Straight Photography)と、演出によって撮影された横浜写真について整理していく。1900年代を中心に日本の様々な被写体を撮影したポンティングの写真表現とその意図を探ることは、日本紹介の写真における横浜写真のその後を知る手がかりとなるだろう。
日本比較文学会東北支部 第20回比較文学研究会(東北大学大学院情報研究科共催)のお知らせ
研究会のご案内です。
第20回比較文学研究会を下記の要領で開催致します。
皆様ふるってご参加ください。(一般来聴歓迎)
*なお、本研究会は東北大学大学院情報研究科との共催です。
記
・日時 2019年7月20日(土)15:30~ *受付開始15:00〜
仙台市地下鉄東西線八木山動物公園方面 「青葉山駅」下車・徒歩1分
▼会場アクセス→https://www.is.tohoku.ac.jp/jp/introduction/access.html
・プログラム
[開 会 の 辞] 東北支部長 森田 直子
[研 究 発 表]
ポンティングの見た日本人
―1900年代に撮影された肖像写真における表現とその意図―
矢 島 真 澄 美
仁 平 政 人
[懇親会]
*研究発表終了後、同研究棟3階小講義室にて懇親会を予定しております。
会費は一般会員4,000円、学生2,000円程度です。
ご参加の方は右上の事務局まで御連絡ください。
*会に先だって、14:00~役員会を開催致します。委員の皆様はご参集ください。
[支部会員書籍情報]森田直子著『「ストーリー漫画の父」テプフェール ―笑いと物語を運ぶメディアの原点―』
・森田直子著『「ストーリー漫画の父」テプフェール ―笑いと物語を運ぶメディアの原点―』、萌書房、2019年2月
【目次】
序章 テプフェール漫画誕生の経緯
第1章 笑いが基本
第2章 絵で何をどのように物語るか
第3章 顔としぐさのメディア
第4章 本のメディア
終章 テプフェールの死から「イエロー・キッド」の時代まで
*『ジャボ氏の物語』の初版の復刻(日本語訳付)が付録として収録。
[支部会員書籍情報]高橋秀太郎・森岡卓司編『一九四〇年代の〈東北〉表象 文学・文化運動・地方雑誌』
・高橋秀太郎・森岡卓司編『一九四〇年代の〈東北〉表象 文学・文化運動・地方雑誌』(東北大学出版会、2018年10月)
【目 次】
序 地方文学研究と近代日本における〈東北〉表象 森岡卓司
1章 島木健作の「地方」表象 山﨑義光
2章 戦時下のモダニズムと〈郷土〉ー雑誌『意匠』・沢渡恒における「東北」 仁平政人
3章 『文学報国』『月刊東北』における地方/東北表象の消長 高橋秀太郎
[コラム1] 金木文化会と太宰治 仁平政人
5章 〈脱卻〉の帰趨ー高村光太郎に於ける引き延ばされた疎開 佐藤伸宏
6章 更科源蔵と『至上律』における地方文化 野口哲也
[コラム2]石井桃子と「やま」の生活ー宮城県鶯沢での開墾の日々 河内聡子
7章 皇族の東北訪問とその表象ー宮城県公文書館所蔵史料にみるイメージの生成 茂木謙之介
8章 「北日本」という文化圏ー雑誌『北日本文化』をめぐって 大原祐治
あとがき 高橋秀太郎