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[要旨④]

島木健作満洲紀行』と渡辺勉の報道写真

山崎義光(秋田大学

 

 島木健作満洲紀行』(創元社、1940)は満洲開拓地の実状見聞にもとづいたエッセイ集である。本書の特質が見聞のリアリズムによる批評性にあることについて拙論「島木健作の地方表象」(『一九四〇年代の〈東北〉表象 文学・文化運動・地方雑誌』 東北大学出版会、2018)で論じた。本発表では『満洲紀行』に渡辺勉撮影の30葉の写真が付せられていることを取り上げる。島木は序文で「私の文章と渡辺君の写真とは必ずしもマッチしてはゐない。しかし、印象的な紀行文からははるかに遠い私の旅行記が、これらの写真によつて柔らげられ、補われるところがあれば有難いと思つてゐる」と記していた。島木の序文の意味を、当時、渡辺が満洲移住協会発行『新満洲』などに掲載していた写真や、写真入門書として刊行した『組み写真の写し方纒め方』(アルス、1941)を参照して明らかにする。それによって、20世紀のルポルタージュ(記録、調査、報道、報告、紀行)に関する細やかな問題提起としたい。