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[研究発表]要旨②

【研究発表②】

呉衛峰「中国現代詩の翻訳と世界文学―是永駿の仕事を中心に―」

 是永駿による二首の中国現代詩の翻訳を、翻訳論の見地およびダムロッシュが再提起した「世界文学」の概念の視点より検討する。

 まず、ダムロッシュ著『世界文学とは何か?』の序章で掲げられた北島(ペイタオ)の「回答」の二種の英訳を見る。中国文学研究者であるスティーブン・オーウェンの評価も合わせて紹介し、中国現代詩が世界文学の舞台に現れるときに孕んでいる問題を考察するうえ、同じく漢字文化圏に属する是永の日本語訳と読み比べ、両者の特徴を明らかにする。

 次に、是永駿の日本語訳による芒克(マンク)の詩、「死してなお老いさらばえることがある」を掲げる。北島(ペイタオ)の場合と異なり、訳は芒克の透明的でやや散文的な文体を和語・漢語・詩語の見事な組み合わせで原詩の言葉とシンタックスに襞を付け加え、原詩以上に詩情豊かで重厚な出来栄えに仕上げている。
 是永駿の中国語現代詩翻訳は、等価性と訳者の創造の問題と同時に、世界文学の概念と関連する多様性と普遍性の問題をも考えさせる。ダムロッシュの主張した世界文学の中で、日本における「世界文学」、東アジアにおける「世界文学」の存在およびその地域性や特殊性が、如何に位置づけすべきかと問題提起する。