ヒトラーとピブーン、2 つの大国化主義 渡辺将尚(山形大学)
第2 次大戦前から戦中および戦後、計16 年にわたってタイの首相を務めたピブーン(1897〜1964)は、反対する勢力には粛清も辞さない独裁的な政治手法から、しばしばヒトラーに類する者として取り上げられる。また、仏泰戦争(1893 年)以降フランスに割譲した領土の奪還(「失地回復」)を目指し「大タイ主義」を唱えるなど、政策面での共通点も多い。周知のように、ヒトラーも当初、国土を最低でも1914 年の状態にもどす「失地回復」を目論み、最終的には、東はヴォルガ川にまで至る広大な領土獲得へと、その野心をふくらませていった(「大ドイツ主義」)。本発表ではまず両者の共通項を洗い出すことにより、大国化主義の根底にあるものを明らかにしたい。しかし両者の間には明確な差異も存在する。これについては、「国家」あるいは「民族」に対する、西洋的思考・東洋的思考に端を発するものであるとの仮説のもと、論じていくつもりである。