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[研究発表]要旨①

19世紀前半のハワイ王国における女性支配者とハワイ文化 

  ―文化改革のなかの「フラ禁止令」―   目黒 志帆美

 

 1970年代にハワイで興隆した先住民権利回復運動の下でハワイの伝統舞踊であるフラの歴史は、宣教師を中心としたアメリカ人による「抑圧」とこれに対するハワイアンの「抵抗」の物語として語られてきた。しかしながら、こうしたアメリカ人対ハワイアンという二項対立的な歴史観のもとでは、フラを抑圧したアメリカ人の「蛮行」が糾弾されるあまり、一部のハワイアン支配者階級もまたフラに否定的な姿勢を示した事実が無視されている。そこで本報告では、副王的存在であった女性支配者、カアフマヌ(Kaʻahumanu、1768-1832)が1830年頃に発令した「フラ禁止令」に焦点をあててみたい。
 古代ハワイ社会において、フラは土着の神々に対する信仰心を体現するとともに、支配者階級の権威の正統性を強調する役割を果たしていた。それにもかかわらず、カアフマヌがフラを禁じたのはなぜだったのだろうか。折しも、当時のハワイ王国では、伝統的信仰・慣習を廃しプロテスタント国家を目指す改革が、カアフマヌ主導下で展開されていた。本報告では、この文化改革の文脈に「フラ禁止令」を据えながら、19世紀前半のハワイ王国における文化と支配者の権威をめぐる力学を明らかにしたい。