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[特集 シンポジウム]言語の選択と文学の流通

講演 澤 正宏氏(福島大学名誉教授)

講演 秋草 俊一郎氏(日本大学

報告 高橋 由貴(福島大学

司会 佐野 正人(東北大学

 

 2000年代より英語圏を中心に、文学の生成・流通を世界的な視座の下で捉える「世界文学」という概念が定着しつつある。国家や民族という狭い仕組みに縛りつけられていた作品が、世界というフィールドに流通することで、新たな読者を獲得したり、従来とは異なる解釈へ開かれたりする。生来に獲得される母語以外の外国語で創作する行為や作品に対する評価も、劇的に変化しつつある。こうした「世界文学」論の隆盛を受け、今回の特集では、文学が世界規模で流通する際に問われる言語の選択という事態について考えたい。

 進行は、まず澤正宏氏に「西脇順三郎モダニズム」と題した講演をいただく。西脇はオックスフォード大学留学中に英詩集『Spectrum』(大正14年)を刊行する。この時、ラテン語で詩を書くという試みもなされている。日本を遠く離れ、日本語ではなく外国語で詩作をスタートさせた西脇の文学的営為について、モダニズムとの接触を中心にお話を伺う。

 続いて、秋草俊一郎氏に「ソヴィエトと「世界文学」―翻訳と民族語創作の奨励をめぐって」と題してお話しいただく。ポストコロニアルな状況において、英語による一元的な支配ではなく、民族語による多様な創作を奨励すべき、そして翻訳を活発にすべきという議論がなされることがある。20世紀において、実際にそれを政策として実行した国家が、ソヴィエト社会主義共和国連邦である。今回の講演では、ソヴィエトが革命50周年を記念して出版した『世界文学叢書』全200巻を例にとりあげて、その内実をご紹介いただく予定である。

 最後に支部会員より高橋由貴が、「畠山千代子の英語詩創作のプロセス」として報告を行う。宮城女学校時代、宣教師の指導の下で英語詩を作っていた畠山千代子という女性について紹介し、またウィリアム・エンプソンによる彼女の英語詩添削のコメントを検討しながら、〈日本人に英語詩が書けるのか〉という問題について提起したい。