日本比較文学会東北支部のページ

日本比較文学会の東北支部活動について情報発信して参ります。

研究発表②

自己翻訳の書法――『Ambarvalia』《LE MONDE MODERNE》をめぐって

                       佐藤伸宏東北大学名誉教授)

 『Ambarvalia』は昭和8年(1933)9月に上梓された西脇順三郎の第一詩集である。但しそれらの詩に先行して、西脇は英語・フランス語等の外国語を用いた詩作に専念しており、3冊の詩集が編纂されている(Spectrum, Exclamations, Une montre sentimentale)。従って『Ambarvalia』は、西脇が日本語で創作した詩篇の最初の集成ということになる。

  《LE MONDE ANCIENT》及び《LE MONDE MODERNE》の二部で構成された同詩集において、後半部を占める後者の「わからない詩」が詩集の「中心」をなす(西脇「近代人の憂鬱」「私の一冊―「アンバルワリア」」)が、それらの大半は西脇が自作の外国語詩を自ら日本語に訳出した自己翻訳によって成立している。本発表では、その点を踏まえ自己翻訳の詩としての《LE MONDE MODERNE》の問題を取り上げる。とくに詩章「失楽園」冒頭におかれた「世界開闢説」を中心に、原詩(«PARADIS PERDU», “ 1.Cosmogonie”)との比較対照をとおして、自己翻訳によって成立した「わからない詩」、その特異な日本語表現の特質と意義について考察を加えることにしたい。