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[要旨①]

牛島春子「祝といふ男」―植民地主義における浪漫精神の表現

賈戈輝(筑波大学大学院研究生)

 

 作家・牛島春子(1913〜2002)は、1936年から1946年まで、「満洲国」即ち中国の東北地方に足掛け十年間住んでいた。本発表では、牛島の「満洲」作品のうち最も注目を浴びた「祝といふ男」(1940)という小説について、植民地や植民地主義をめぐる表現に焦点を当て、植民地主義に回収される作家の浪漫精神を明らかにする。「祝といふ男」は、牛島が1937年から1938年までの出来事に基づいて執筆したものである。本発表は、小説における登場人物と原型となる人物を比較することを通して両者の違いを見出し、この違いによって具体化された作者の浪漫精神の表現について考察する。そして、植民地主義を基盤とする、執筆時期までの社会背景を視野に入れて検討する。彼女の浪漫精神の表現は植民地主義に回収されたものであり、言いかえれば牛島本人の植民地主義の表現とも言えることを主張したい。