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[研究発表]要旨②

満洲国の女性作家・梅娘の日本経験と近代的主婦像

                秋田大学   羽田 朝子 

 満洲国の代表的な中国人女性作家である梅娘(19162013)は、1930 年代後半から 40 年代初頭 にかけて日本に滞在している。帰国後は日本占領下の北京へと移り、女性をテーマに数々の作品を 書き、文壇の中心人物として活躍した。しかし同時に『婦女雑誌』誌上で日本の銃後の女性を称賛 する言論を発表したことから、現在でも民族主義の観点から批判がされている。

 これに対し本発表が着目するのは、梅娘の滞在当時の日本では、都市化が進んだことにより近代 的主婦が社会の広い範囲で登場し、また戦時下において女性の動員が必要となったことから、その 社会進出や地位向上が一定程度実現していたことである。こうした事情が、梅娘の『婦女雑誌』で の言論にも大きく影響を与えたのである。

 これを踏まえ、本発表では梅娘の日本経験――とくに梅娘が日本滞在時に大ベストセラーとなり 話題を呼んだ石川達三『母系家族』や細川武子『女学生記』の翻訳に着目する。その上で『婦女雑 誌』での文学活動を再考し、占領下の女性知識人としての梅娘の複雑な境遇や精神を明らかにする。