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研究発表①

永井荷風『あめりか物語』における方法としての歩行

    ——ボードレールの引用に着目して——

              廣瀬航也(福島高等専門学校東北大学大学院)

 永井荷風『あめりか物語』(博文館、1908年8月)は、作家のアメリカ体験に取材したテクストの集成である。『あめりか物語』に関する比較文学的研究においては、作家の渡航体験やフランス文学受容、近年では明治の渡米ブームや「移民」の問題について議論が重ねられてきた。本発表では、『あめりか物語』後半部の短編を取り上げ、ニューヨークという都市を作家になぞられた主体が歩行する、ということの意義を、テクストの方法レヴェルの問題として検討することを目的とする。「夜半の酒場」「支那街の記」「夜あるき」等をとりあげ、ボードレールの引用の問題を踏まえながら、歩行によって展開される都市の諸相を捉えるとともに、歩行する主体が都市の景物や、移民をはじめとする人々とどのような関係性を結ぼうとしているのかを検討する。それは、都市というものに最も敏感であった作家が、ニューヨークの街を経験することにより、どのような方法を獲得したのかを明らかにすることにつながるだろう。