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[特集発表①]要旨

〈13:25 〜 13:50〉

村上春樹ねじまき鳥クロニクル』における満州・シベリア

大野建(北海道大学大学院)

 村上春樹ねじまき鳥クロニクル』(新潮社、1994-1995年)は、ノモンハン戦争を中心に第二次世界大戦を題材に取ったことで有名である。それまでの村上作品には見られない歴史的事件の凄惨な描写が評価される一方で、失踪した妻を探す現代のストーリーとの繋がりの曖昧さは議論を集めてもいる。小説で語られる歴史は主人公によって捉えられた一種のフィクションであり現実の歴史的事実との関わりはなく、戦争は都合のいい題材に過ぎないと見なす論者もある。だが、湾岸戦争下に渡米し日本のあり方を問われる中で戦後日本と戦争の関係を考えざるをえなかった村上にとって、歴史を現代の中に息づくものとして小説に用いることは必然的な方法である。『ねじまき鳥クロニクル』における満州・シベリアでの戦争体験談は、村上の小説技法とあわせて再度検討される必要がある。エッセイ等で語られる『ねじまき鳥クロニクル』の方法を検証し、本作の歴史叙述の意味を明らかにする。このことは村上が考える戦後日本の問題の中の満州・シベリアでの戦争の歴史の位置を考えることに繋がる。