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【研究発表③】要旨

平野啓一郎と金衍洙文学の比較研究―ボルヘス文学の受容様相を中心に―
                         姜 惠 彬(医療創生大学)


 本発表では、ホルヘ・ルイス・ボルヘス文学の受容様相を軸に、文学的交流の深い
二人の作家、平野啓一郎と金衍洙(キム・ヨンス)の文学を比較検討する。平野は、
ボルヘス「バベルの図書館」(1941)における、原典を持たない厖大なテクストとい
う概念を現代テクノロジーの問題へと置き換え、「バベルのコンピューター」(2004)を発表している。その過程で平野が述べた、すべての事物と語りが、無限の可能性とパターンの中の一通りであるという認識は、ボルヘス「不死の人」(1952)のテーマと重なる。そして、キム・ヨンスの「不死の人間」(2015)は、「変転」の概念を中心に「不死の人」を参照していると考えられる。繰り返される一連の過程においても、事物は「変転」を通じて新たなものへと生まれ変わるとされ、本作は、語る主体と読む主体が無限の「変転」を経験する可能性を提示している。本発表では、二人の作品における、語る行為の限界意識と小説作法の問題に焦点を当て、日韓現代文学の同時代性を探ることを目指す。