日本比較文学会東北支部のページ

日本比較文学会の東北支部活動について情報発信して参ります。

研究発表②

自己翻訳の書法――『Ambarvalia』《LE MONDE MODERNE》をめぐって

                       佐藤伸宏東北大学名誉教授)

 『Ambarvalia』は昭和8年(1933)9月に上梓された西脇順三郎の第一詩集である。但しそれらの詩に先行して、西脇は英語・フランス語等の外国語を用いた詩作に専念しており、3冊の詩集が編纂されている(Spectrum, Exclamations, Une montre sentimentale)。従って『Ambarvalia』は、西脇が日本語で創作した詩篇の最初の集成ということになる。

  《LE MONDE ANCIENT》及び《LE MONDE MODERNE》の二部で構成された同詩集において、後半部を占める後者の「わからない詩」が詩集の「中心」をなす(西脇「近代人の憂鬱」「私の一冊―「アンバルワリア」」)が、それらの大半は西脇が自作の外国語詩を自ら日本語に訳出した自己翻訳によって成立している。本発表では、その点を踏まえ自己翻訳の詩としての《LE MONDE MODERNE》の問題を取り上げる。とくに詩章「失楽園」冒頭におかれた「世界開闢説」を中心に、原詩(«PARADIS PERDU», “ 1.Cosmogonie”)との比較対照をとおして、自己翻訳によって成立した「わからない詩」、その特異な日本語表現の特質と意義について考察を加えることにしたい。

研究発表①

永井荷風『あめりか物語』における方法としての歩行

    ——ボードレールの引用に着目して——

              廣瀬航也(福島高等専門学校東北大学大学院)

 永井荷風『あめりか物語』(博文館、1908年8月)は、作家のアメリカ体験に取材したテクストの集成である。『あめりか物語』に関する比較文学的研究においては、作家の渡航体験やフランス文学受容、近年では明治の渡米ブームや「移民」の問題について議論が重ねられてきた。本発表では、『あめりか物語』後半部の短編を取り上げ、ニューヨークという都市を作家になぞられた主体が歩行する、ということの意義を、テクストの方法レヴェルの問題として検討することを目的とする。「夜半の酒場」「支那街の記」「夜あるき」等をとりあげ、ボードレールの引用の問題を踏まえながら、歩行によって展開される都市の諸相を捉えるとともに、歩行する主体が都市の景物や、移民をはじめとする人々とどのような関係性を結ぼうとしているのかを検討する。それは、都市というものに最も敏感であった作家が、ニューヨークの街を経験することにより、どのような方法を獲得したのかを明らかにすることにつながるだろう。

日本比較文学会2021年度東北大会のご案内

本年度東北大会のご案内です。

日本比較文学会2021年度東北大会を対面/オンライン併用のハイブリッド形式にて開催致します。

皆様ふるってご参加ください。(一般来聴歓迎)

 

          記

 

・日時 2021年11月13日(土)13:00~ (*11/8開始時間誤記訂正)

・場所 カレッジプラザ(秋田市中通2丁目1-51 明徳館ビル2階)
    *秋田駅徒歩8分 アクセスは以下のサイト参照のこと↓

www.pref.akita.lg.jp

13:00~

[開会の辞] 森田直子 支部

 

[研究発表] 

13:05~13:45

永井荷風『あめりか物語』における方法としての歩行
——ボードレールの引用に着目して——
廣瀬航也氏

13:45~14:25

自己翻訳の書法――『Ambarvalia』《LE MONDE MODERNE》をめぐって
佐藤伸宏

 
[休憩] 14:25~14:35
 
[シンポジウム]
14:40~16:55
 
 
「『種蒔く人』とフランス・ドイツ・ロシア-創刊100年後の検証-」
 基調講演:北条常久氏/60分
 報告1:阿部邦子氏/20分
 報告2:杉淵洋一氏/20分
 報告3:中村能盛氏/20分
 コメンテーター:高橋秀晴氏
 
 意見交換(シンポジスト)/20分
 質疑応答(フロア)/20分

 

[総 会] 17:00〜17:30

 
 
なお、今大会は会場と、オンライン会議用ソフト「Zoom」を使用したオンラインでの開催を併用する形式で行います。
オンラインでの参加をご希望の方は、下記のリンクからフォームに入り、お名前、メールアドレス等をご登録ください。(会場での参加を予定されている方は、ご登録は不要です)
 

 

日本比較文学会第23回比較文学研究会(7月17日)のオンライン参加用登録フォームのご案内

7月17日の日本比較文学会東北支部比較文学研究会につきまして、オンライン参加用の登録フォームを作成いたしましたので、お知らせいたします。
 
先にご案内しましたとおり、本研究会はオンラインで開催されます。参加をご希望の方は、下記のリンクからフォームに入り、お名前、メールアドレス等をご登録ください。登録は前日(7月16日)までにお願いいたします。
 
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdNxhwPopoTyOSpZEAxdkIf9ED8kde1_GycPvJe2ZR5OWN28g/viewform?usp=sf_link
 
 なお、オンライン参加用のURLや資料の入手方法につきましては、登録された方に前日までにお知らせいたします。

[特別企画]趣旨

高村光太郎智恵子抄』仏訳(TAKAMURA Kôtarô, Poèmes à Chieko)の刊行をめぐって

 ・報告者 中里まき子氏(岩手大学

・報告者 エリック・ブノワ氏(ボルドーモンテーニュ大学)

・コーディネーター 森田直子氏(東北大学

 

 今年(2021年)、高村光太郎智恵子抄』の本邦初となる仏訳が、中里まき子氏の翻訳によりフランス・ボルドー大学出版会より刊行されました。中里氏は福島のご出身で、2011年から10年かけてご訳業を完成されました。この機会に中里氏をゲストにお招きし、刊行までの経緯や翻訳作業において苦心なさった点などについて、お話を伺う(オンラインの)場を設けることにしました。仏訳協力者のエリック・ブノワ氏もご参加くださる予定です(ブノワ氏のお話については中里氏による通訳あり)。企画発案者の森田からのコメントのあとは、フロアもまじえての意見交換、質疑応答の時間といたします。(森田)

[要旨]研究発表①

茂木謙之介氏(東北大学)    雑誌『幻想文学』における須永朝彦 

 

 1980年代から2000年代初頭にかけて〈幻想文学〉場を牽引したメディアであった雑誌『幻想文学』(1982~2003)と、絶えず伴走していた寄稿者の一人として歌人・小説家・評論家・アンソロジストとして知られた須永朝彦(1946~2021)はいた。〈幻想文学〉研究批評誌としての同雑誌は、脱領域的なジャンルとしての〈幻想文学〉にかんする対談・評論・アンソロジー・創作・ブックガイド・翻訳・インタビューなど多岐にわたる文章を掲載していたが、須永はその全種類に応答した稀有な存在であり、とりわけ日本古典と〈幻想文学〉が論じられる際には必ずその名を目次に連ねる存在であった。他方、同時代の須永の活動を考える上で同誌の存在は決して小さいものではなかった。同時代において須永が最も多く寄稿した雑誌であることもさることながら、とりわけ須永による1990年代における〈幻想文学〉をめぐるアンソロジーの編纂や『日本幻想文学史』(1993)に代表される〈幻想文学〉についての俯瞰的な論説は雑誌『幻想文学』への寄稿と相関的な在り様を看取することが出来る。本報告ではこれらの検討を通じて、同時代における〈幻想文学〉ジャンルの動向の一端を明らかにすることを目指したい。