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[要旨]研究発表①

茂木謙之介氏(東北大学)    雑誌『幻想文学』における須永朝彦 

 

 1980年代から2000年代初頭にかけて〈幻想文学〉場を牽引したメディアであった雑誌『幻想文学』(1982~2003)と、絶えず伴走していた寄稿者の一人として歌人・小説家・評論家・アンソロジストとして知られた須永朝彦(1946~2021)はいた。〈幻想文学〉研究批評誌としての同雑誌は、脱領域的なジャンルとしての〈幻想文学〉にかんする対談・評論・アンソロジー・創作・ブックガイド・翻訳・インタビューなど多岐にわたる文章を掲載していたが、須永はその全種類に応答した稀有な存在であり、とりわけ日本古典と〈幻想文学〉が論じられる際には必ずその名を目次に連ねる存在であった。他方、同時代の須永の活動を考える上で同誌の存在は決して小さいものではなかった。同時代において須永が最も多く寄稿した雑誌であることもさることながら、とりわけ須永による1990年代における〈幻想文学〉をめぐるアンソロジーの編纂や『日本幻想文学史』(1993)に代表される〈幻想文学〉についての俯瞰的な論説は雑誌『幻想文学』への寄稿と相関的な在り様を看取することが出来る。本報告ではこれらの検討を通じて、同時代における〈幻想文学〉ジャンルの動向の一端を明らかにすることを目指したい。