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[研究発表]要旨①

貧民の空間 ―明治の貧困表―  

             秋田県立大学   加賀谷 真澄

 

 明治初期から中期にかけて、都市に生きる貧民の暮らしぶりが新聞や雑誌でくり返し報じられる ようになった。その多くは、住環境の不衛生さや犯罪率の高さなどに焦点を当てており、貧民が衛 生・道徳観念を欠いた、人間の枠組みから逸脱した生き物であるかのように描いている。また、彼 らの好ましくない性質は、特定の地域と結びつけられ、土地名に言及するだけでどのような階層の 住民が住んでいるかが想起されるようになっている。このような貧民表象は、文学作品においても 用いられており、貧困の空間はストーリーの展開や登場人物の性質を決定する装置となっている。

 本発表は、明治期の貧民表象が、観察者の立場や視点、そして社会的な状況によって強調する負 の要素を微妙に変化させていることに注目し、それは近代国家としての日本社会が貧困をどのよう 捉えるかという試みであったことを考察する。