日本現代小説における横書きレイアウト―文字・表記への意識および原稿との関係―
本発表では、日本近現代文学の書記空間における横書きの使用が、日本語の文字や表記への問題意識、ページの視覚性への意識、原稿作成媒体の変化などとの関係でいかなる意味をもってきたかを考察する。
日本語においては縦書きと横書きの併存が続いているが、小説は少数の例外を除き縦書き原則である。そのなかで、1995年の水村美苗の横書き小説『私小説from left to right』が、書物という形をとる以前の「文章を書く」環境、そして原稿作成の変革期をよく表していたことは、四半世紀を経た時点からははっきり認識することができる。本小説における横書きはまた、日米両文化、書き言葉と話し言葉、読むことと書くこととの自由な往還を可能にしている。一方、21世紀の日本小説における横書きレイアウトはどのような位置づけにあるのか、平野啓一郎、黒田夏子などの事例とともに検討する。
なお、現段階では構想に過ぎないが、明治期のローマ字実践もまた(横書きは必然にすぎないにせよ)、日本文学の横書きという文脈に含めて考えうるという点について述べる。