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[特集 研究交流ラウンドテーブル①]要旨

▼指定討論者:中村建(北海道大学大学院)

 

▼発表者:廣瀬航也(宮城教育大学

明治後期のボードレール ——永井荷風『珊瑚集』までの道程——

 

 明治から大正期にかけてのフランス詩の翻訳は、上田敏海潮音』(本郷書院、1905年10月)、永井荷風『珊瑚集』(籾山書店、1913年4月)、堀口大学『月下の一群』(第一書房、1925年9月)を定点として語られてきた。永井荷風研究においても、ボードレールの受容はしばしば議論の対象になってきたが、その具体はもちろん、同時代的なボードレール受容の中での位置づけも未だ十分に検討されていない。本発表では、『海潮音』から『珊瑚集』に至るまでのボードレール受容史について、翻訳や批評の展開を辿りながらその諸相を明らかにするとともに、『珊瑚集』所収の翻訳テクストとその周辺の散文テクストがそこにどのように位置づけられるかを測定する。それにより、「遊歩」や「時間」といったボードレールの鍵概念が荷風テクストにどのように落とし込まれ、またそれにどのような意義があったのかを明らかにする。それは、日本近代におけるボードレール受容史の一端を明らかにすると同時に、明治後期から大正期にかけての荷風テクストの試みを評価することにつながるだろう。