日本比較文学会東北支部のページ

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[特集 研究交流ラウンドテーブル②]要旨

▼指定討論者 姜惠彬(医療創生大学)

 

▼発表者 大野建(北海道大学大学院)

村上春樹「土の中の彼女の小さな犬」における戦後の階級―スコット・フィッツジェラルド「リッチ・ボーイ(金持の青年)」との比較から―

 

 村上春樹「土の中の彼女の小さな犬」(『すばる』1982・11)は裕福な若い女が抱える生きづらさを第二次世界大戦後の階級の問題として描き出す。これは村上も翻訳しているF. S. Fitzgerald “The Rich Boy” (Red Book. 1926/1-2)が第一次世界大戦後の没落する上流階級として金持の青年を描いたことと類比的である。高級リゾートホテルの消滅や親の失職による私立高校退学といった1982年の時点でバブル崩壊を予見していたかのような内容の「土の中の彼女の小さな犬」は、村上の戦後日本社会へのまなざしを検討する上で興味深い。また、村上が後に崩壊する1980年代の好況をフィッツジェラルドが経験した1920年代に重ね合わせて見ていたことは周知の通りである。本発表は戦後の日本文学にアメリカ文学を持ち込む村上の試みの一端を明らかにすることも目指す。今後の村上とフィッツジェラルドの比較研究を押し進める方途を探りたい。