日本比較文学会東北支部のページ

日本比較文学会の東北支部活動について情報発信して参ります。

[特集企画]趣旨文

[特集]〈13:20〜 16:35〉

北方体験とその表象―シベリア・サハリン・満州

 

【企画趣旨】

 比較文学研究において〈越境〉という語が重要視されて久しい。越境先である〈向こう〉の土地の記憶や体験を〈こちら〉と分有する営みは、多くの人が関心を持つものでありながら、しかしそう容易ではない。入植や抑留など、国家や社会状況に強いられる滞在・移動の場合、そこでは〈越境〉すべき〈向こう〉と〈こちら〉との境界線すら引き直されることになる。今回の特集ではシベリア、サハリン(樺太)、そして「満州」に目を向けたい。近代日本にとって、苛酷な場所であり最も激しく境界線の引き直しが生じたこの地域における記憶や体験のあり方、そしてその伝達・表象の問題について考えたい。

 溝渕園子氏には、ハバロフスクで刊行された抑留者向けタブロイド版『日本新聞』の調査を踏まえた、抑留の場における文学的体験に関するご報告をいただく。村田裕和氏には、長谷川四郎『シベリヤ物語』に読み落とされてきた「ドゥシェグープカ」のイメージを通じて、戦後日本における抑留の記憶の位置づけについて論じていただく。SOLOMON JOSHUA LEE氏には、青森の方言詩人としてのみとりあげられることの多い高木恭造の、満州日本語文学作家としての側面に焦点をすえ、高木が満州体験をどのように描いたのか、エコクリティシズムの観点から論じていただく。大野建氏には、村上春樹ねじまき鳥クロニクル』における満州・シベリアの戦争体験談について、作家が湾岸戦争下に渡米していたことを踏まえながら、その歴史叙述としてのあり方を論じていただく。これらの報告・発表については、ゲストとしてお招きするロシア極東史を専門とする天野尚樹氏のコメント、ロシア文学を専門とする中村唯史氏の司会によって、参加者全体で議論を深めていくこととしたい。(高橋由貴)

[研究発表①]

[研究発表]〈12:35 〜 13:20〉

谷川俊太郎の英訳併録詩集―『メランコリーの川下り』と『minimal』をめぐって―」

中村三春(北海道大学

谷川俊太郎の『minimal』(2002.10、思潮社)は、谷川の詩と、William I.Elliottおよび川村和夫によるその英訳とが配置された詩集であり、その先駆は詩集『メランコリーの川下り』(1988.12、同)であった。鼎談「新詩集『minimal』をめぐって」(谷川俊太郎・田原・山田兼士『谷川俊太郎《詩》を語る—ダイアローグ・イン・大阪 2000〜2003』、2003.6、澪標)において、谷川は、『minimal』の英訳は二人による訳をいわば監修して、「この主語は『I』じゃなくて『You』なんだよとか」と助言したことを明らかにしている。山田兼士はこのことを踏まえ、「英訳が注釈になるという機能」があり、同詩集巻頭の「襤褸」を例として、原詩では曖昧な箇所が、英訳では自分の読み方とは違って明確化されることを説明する。それに対して谷川は、「作者とは違う読みの方がいい場合もあるんですよね」と答えている。

 自らもレオ・レオニ作品やマザー・グース詩集、ピーナッツ・シリーズの翻訳者である谷川の詩集は、エリオットと川村によって多く翻訳され、特に集英社文庫版の『二十億光年の孤独』(2008.2)や『62のソネット+36』(2009.7)にも両者による英訳が収録され、普及している。ただしここで考えたいのは、初版刊行時から既に英訳が併録されることの意味についてである。通常、翻訳は解釈であるから、原文と異なることは意外ではない。だが、たとえば「襤褸」の場合、一読して必ずしも相容れるものではない原詩と訳詩とが、著者のいわば監修の下に最初から同居している。これは、総体として見れば、詩の表現に意図して雑音を混入させる手法なのではないか。その時、詩や詩集の様式・性格は、そうでない場合と比してどのようにとらえるべきなのか。

 発表者はこれまで、谷川の詩集におけるアプロプリエーション(流用)やシミュレーション(模造)さらに触発の手法から、その現代芸術としての性質を探ってきた。ここではその延長線上に、英訳併録という構成が生む接続の様態について、検証を試みたい。

日本比較文学会 北海道支部・東北支部共催第6回比較文学研究会のご案内

3月の研究会を、北海道支部との共催で下記のようにハイブリッド形式(対面+オンラインソフトZoomを使用)で開催致します。

6年ぶり6回目の北海道支部との共催研究会です。
会員のみなさまはもちろん、会員外の一般の方々のご参加もお待ち申し上げております。

 

               記 

 

日時:    2022年3月27日(日) 12:30〜16:30

会場: 北海道科学大学 E棟304教室

札幌市手稲区前田7条15 丁目4−1 

www.hus.ac.jp

〈アクセス〉JR手稲駅から車で約5分、徒歩で約25分。

会場E304教室は正門(南向き)から入り、奥正面の建物(E棟)内にあります。正面玄関から入館可能です。会場は3階です。

 

[開 会 の 辞]   梶谷崇(北海道支部長、北海道科学大学

 

[研究発表]

谷川俊太郎の英訳併録詩集——『メランコリーの川下り』と『minimal』をめぐって——

中村三春(北海道大学

司会 井上貴翔(北海道医療大学

 

[特集] 北方体験とその表象 ―シベリア・サハリン・満州

司会 中村唯史京都大学

コメンテーター 天野尚樹(ゲスト 山形大学

 

村上春樹ねじまき鳥クロニクル』における満州・シベリア

大野建(北海道大学大学院)

 

マイナー文学者高木恭造が表象する満洲 ——エコクリティシズムの観点から——

SOLOMON JOSHUA LEE(弘前大学

 

ドゥシェグープカの記憶 ——長谷川四郎『シベリヤ物語』と戦後日本——

村田裕和(北海道教育大学旭川校

 

日本新聞』とロシア・ソビエト文学 ——シベリア抑留者の文学空間——

溝渕園子(広島大学

 

 

[閉 会 の 辞]  森田直子(東北支部長、東北大学

 

 

*オンラインでの参加について

今大会は、会場と、オンライン会議用ソフト「Zoom」を使用したオンラインでの開催を併用する形式で行います。北海道支部会員も含め、オンラインでの参加を希望される方は、日本比較文学会東北支部のホームページ(http://jcla-tohoku.hatenadiary.jp/)より参加登録をお願いいたします

日本比較文学会 北海道支部・東北支部共催 第5回比較文学研究会(予告)

3月末の研究会を以下のように北海道支部と共催にてハイブリッド形式(対面とZoomの併用)で開催する予定です。
具体的なプログラムは2週間後に改めて予告致しますが、
会員のみなさまはもちろん、会員外の一般の方々のご参加もお待ち申し上げております。

 

               記 

 

    日 時:    2022年3月27日(日) 午後開始

    会 場: 北海道科学大学 E棟304講義室

         リモート参加の方はオンラインソフトZoomを使用

 

 

【特集企画】

〈極東〉体験とその表象―シベリア・サハリン・満州(仮)

 

【登壇者】

・溝渕園子氏(広島大学

・村田裕和氏(北海道教育大学

・ソロモン・ジョシュア・リー氏(弘前大学

・大野建氏(北海道大学大学院)

 

【ディスカッサント】

・天野尚樹氏(山形大学)*特別ゲスト

 

【司会】

中村唯史氏(京都大学

 

 

*特集企画の他に自由研究発表が入る場合があります
*当日会場にお越しの方は、事務局にご一報いただけますと幸いです。
オンラインで参加の方には、のちほど参加フォーマットをお知らせ致します。

日本比較文学会東北大会(11月13日)オンライン参加用登録フォームのご案内

 日本比較文学会東北大会(2021年11月13日)につきまして、オンライン参加用の登録フォームを作成しましたので、お知らせいたします。
 参加をご希望の方は、下記のリンクからフォームに入り、お名前、メールアドレス等をご登録ください。

*登録は13日の12時で締め切らせていただきます。

 

日本比較文学2021年度東北大会 参加登録フォーム

 

  なお、オンライン参加用のURLや資料の入手方法につきましては、登録された方に前日までにお知らせいたします。

[シンポジウム]『種蒔く人』とフランス・ドイツ・ロシア――創刊100年後の検証――

[シンポジウム]14:35 ~ 16:55

『種蒔く人』とフランス・ドイツ・ロシア ―創刊100年後の検証― 

 

                  コメンテーター 高橋秀晴(秋田県立大学

[基調講演] 

第1次世界大戦と小牧近江

               北条常久(あきた文学資料館名誉館長)〈ゲスト〉

 

[報告1] 

小牧近江著 藤田嗣治挿絵 フランス語詩集『数詩篇』(フランス語原題Quelques poèmes ケルク・ポエム)に探る日仏美術文学の交錯

                     阿部邦子(国際教養大学)〈ゲスト〉

 シンポジウムでは、プロレタリア文学雑誌『種蒔く人』発刊(第1号1921年)の功労者で仏文学者・社会学者の小牧近江が、エコール・ド・パリの寵児となる画家藤田嗣治の挿画入りで1919年にパリで出版した自著フランス語詩集『詩数篇』【原題フランス語ケルク・ポエム Quelques poèmes】を紹介し、日仏比較文学のコンテクストで考察する。

 この210部の限定出版の詩集は小牧が10年の在仏生活と決別し帰国する間際に印刷された。小牧はフランスの手土産として持ち帰ることができたが、焼失してしまう。今まであまり取り上げられることもなく、殆ど世に知られていないこの詩集誕生の時代背景、小牧近江と藤田嗣治のパリでの交流、そして日仏美術文学作品の先行例との関連に触れつつ、発表者の専門分野である視覚芸術に文学・思想を加えた複合的視点から、日仏の美術と文学の交錯の深層に光を当てるつもりである。

 

[報告2] 

有島武郎と『種蒔く人』創刊の地・秋田―1922年8月の秋田訪問を視座として

             杉淵洋一(ノースアジア大学明桜高等学校非常勤講師)

 晩年の有島武郎は、1922(大正11)年8月29日から31日までの3日間にわたって、札幌農学校時代の恩師の葬儀のついでに秋田を訪れ、自身の評論『惜みなく愛は奪ふ』と私淑していた詩人・ウォルト・ホイットマンについての講演や、雑誌『種蒔く人』創刊の地である土崎湊の見学などを行っている。講演の終了後に行われたロシアの飢饉への募金の呼びかけは、反戦平和を標榜する『種蒔く人』への有島の強い共感を物語るものであろうし、滞在期間中の『種蒔く人』を創刊した金子洋文、今野賢三等との交流は、有島がいかにこの雑誌と近い関係にあったかを如実に物語るものであろう。そこで本発表では、有島武郎の秋田滞在期間中の日記(「観想録」)や小牧近江を中心とする『種蒔く人』同人達による有島の援助についての証言を再検証しながら、有島のロシア飢饉への思いや、その思いが形成されて行った過程について、ざっくりとした見取り図のようなものを描ければと考えている。

 

[報告3] 

小牧近江と佐々木孝丸の翻訳作品に関する一考察

                   中村能盛(名古屋大学博士研究員)

 『種蒔く人』の誌面には、小牧近江と佐々木孝丸によってマルセル・マルチネの詩やアンリ・バルビュスの翻訳が掲載されていた。二人は、1920年代以降、フランスを中心とした文学作品の翻訳・出版も手掛けるようになっていたのだ。例えば、佐々木孝丸は1922年に『赤と黒』の全訳を、小牧近江は佐々木孝丸との共訳で1924年に『クラルテ』の全訳を行っている。

 1890年代から1910年代までは仏和辞書が2種類しかなかったが、1922年に白水社から『模範仏和大辞典』が出版された。フランスに10年近く滞在していた小牧近江も、日本語訳の際の一助としていた旨を回想している。

 本シンポジウムでは、欧文で書かれた実際の原書と当時の日本の仏和辞書などを手掛かりとして、佐々木孝丸と小牧近江が手掛けた翻訳作品について考察する。そして同時代における西洋文学の翻訳状況を明示した上で、佐々木孝丸と小牧近江の翻訳作品の特徴を解明することを目標としたい。